「親族」の範囲、親等の計算方法、親族関係の発生・終了、「婚姻」の成立・効力、離婚、嫡出子・非嫡出子、養子等に関する解説
1 親族の範囲(725条)
→6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族
2 親等の計算方法(726条)
(1)直系血族は、親子一代をひとつの単位とし、その間の世数を数えて定め
る(726条1項)。
ex.親子は1親等、祖父母と孫は2親等
(2)傍系血族は、共同の始祖に対する各自の親等を合算してその者の親等を
定める(726条2項、ローマ式)。
ex.兄弟姉妹は2親等、伯叔父母と甥姪は3親等、従兄弟・従姉妹は
4親等
※配偶者に親等はない。姻族については、配偶者を基準として同
様の計算方法。
3 親族関係の発生
(1)自然血族関係
→出生によって生じる。
ただし、非嫡出子は、出生によって母および母の血族とは血族関係が生
じるが、父および父の血族とは、父の認知がない限り血族関係は生じな
い。
(2)法定血族関係
→養子縁組によって生じる(727条)。
ただし、養子の血族と養親の血族との間には、何らの血族関係も生じな
い。
ex.養子が、縁組前の子を連れ子として縁組しても、連れ子が養親の血
族とはならない。
※縁組後に出生した養子の子は養親およびその血族と血族関係が生じ
ることに注意!
(3)配偶者・姻族関係
→婚姻によって生じる。
4 親族関係の終了
※配偶者の一方の死亡により婚姻が解消される場合でも、生存配偶者の
婚姻関係(ex.嫁と舅・姑の関系)は当然に終了せず、生存配偶者の
婚姻関係終了の意思表示によってはじめて終了する(728条2項)
。
なお、離婚の場合とは異なり、姻族関係の終了と氏の関係は別問題で
ある。
1 婚姻の成立
①婚姻意思の内容については、社会通念上婚姻と認められる身分関係を設定
する意思をいう(判例・通説、実質的意思説)。
②婚姻障害については、婚姻適齢(731条)、重婚の禁止(732条)、
待婚期間(733条)、近親婚の禁止(734~736条)、未成年者に
つき父母の同意(737条)がある。
2 婚姻の無効・取消
(1)婚姻の無効事由
①人違いその他の事由によって当事者間に婚姻意思がないとき、②当事者が
婚姻の届出をしないときに限られている(742条)。
(2)婚姻の取消事由
①公益取消(744条)→不適齢婚、重婚、近親婚、待婚期間内の婚姻
②私益取消(747条)→詐欺・強迫による婚姻
※不適齢婚については取消可能であるが、単に未成年者の婚姻につき父母
の同意がない場合には、もはや取消できないことに注意!
(3)婚姻の無効・取消の効果
①婚姻の無効→原則として何らの効力も生じない。ただし、無効な婚姻につ
いても、夫婦としての実質的生活関係が存在し、後に他方の配偶者が届出
の事実を知って追認したときには、116条類推適用により、届出時に遡
って有効となる(判例)。
②婚姻の取消→遡及効は認められず、将来に向かってのみ効力を生じる(7
48条1項)。離婚に関する規定が準用される(749条)。
3 婚姻の効力
※法定財産制の内容→①婚姻費用の分担(760条)
②日常家事債務の連帯責任(761条)
③夫婦別産制の原則(762条)
(1)意義・方法
生存中の夫婦が婚姻関係を解消すること。方法としては、協議離婚、調停
離婚、審判離婚、裁判離婚がある。
(2)協議離婚
夫婦の合意(離婚意思の合致)によってする離婚。
①協議離婚の要件→形式的要件:届出をなすこと
実質的要件:離婚意思の合致
※離婚意思の内容としては、協議離婚の届出に向けられた意思で足りる
(判例、形式的意思説)とされていることに注意!
②協議離婚の無効・取消
離婚意思がない、あるいは届出がなされない場合には、協議離婚は無効
である。
詐欺・強迫による協議離婚は取り消しうる(764条・747条)
※取消原因は離婚取消より少ないし、取消の効果も遡及効があることに注
意!
(3)裁判離婚
法定の離婚原因(770条1項)に基づき、夫婦の一方から他方に対する訴
訟によってされる離婚。
※有責配偶者からの離婚請求?
判例は、基本的には否定的であるが、限定的に肯定している。
(4)離婚の効果
①婚姻の解消、②姻族関係の消滅、③復氏(767条)、④相続権の消滅、
⑤親権者(819条1項2項)・監護者の決定(766条・771条)、
⑥夫婦財産制の消滅、財産分与(768条)
※財産分与と離婚慰謝料の関係?
慰謝料を財産分与の中に含めてもよいし、これを別個に扱ってもよい
(判例)。
※財産分与と債権者取消権の関係?
財産分与の額が不相当に過大であり、財産分与に仮託した財産処分と認
められる特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その
限度において詐害行為として取消されるべきである(判例)。
5 婚約・内縁
(1)婚約とは、将来婚姻しようとする旨の当事者の合意をいう。その法的性
質は婚姻予約(契約)である。
(2)内縁とは、婚姻もって、夫婦の共同生活を送っているが、法の定める婚
姻届出を欠くために、法律上は婚姻と認められない男女の結合をいう。
その法的性質は婚姻に準ずる関係と解されている(準婚理論、判例・通
説)。
※内縁夫婦の離別による内縁解消の場合に財産分与の規定の類推適用は
あるが、一方の死亡による内縁解消の場合には財産分与の規定の類推
適用はない(判例)。
1 嫡出子
婚姻関係にある男女間に懐胎・出生した子。
→妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定される(嫡出推定、772条1
項)。
(1)推定を受ける嫡出子
婚姻成立の日から200日後または婚姻解消もしくは取消の日から300日
以内に生まれた子。
※父子関係の否定は嫡出否認の訴え(775条)による。
(2)推定を受けない嫡出子
婚姻成立後200日以内または婚姻解消もしくは取消の日から300日後に
生まれた子。
※父子関係の否定は父子関係不存在確認の訴えによる。
(3)推定の及ばない嫡出子
772条所定の日数からすれば嫡出推定を受ける場合であっても、妻が夫に
よって懐胎することが不可能な事実がある場合の子。
※父子関係の否定は父子関係不存在確認の訴えによる。
(4)二重推定される子
前婚の推定と後婚の推定とが重複すること(再婚禁止期間違反、重婚関係)
により父性について二重推定が及ぶ場合の子。
※父子関係の確定は父を定める訴え(773条)による。
2 非嫡出子
婚姻関係にない男女間に懐胎・出生した子。
→非嫡出子は、出生によって母および母の血族とは血族関係が生じるが、父
および父の血族とは父の認知がない限り血族関係は生じない。
(1)認知
嫡出でない子と父との間に、意思表示(任意認知、779条)または裁判
(強制認知、787条)により法的な父子関係を発生させる制度。
①認知の要件
認知される者の意思を問わないのが原則である。例外的に成年の子の認知
にはその子の承諾(782条)、胎児の認知には母の承諾(783条1項
)、死亡した子に直系卑属がいる場合でその者が成年者であるときはその
者の承諾(783条2項)が必要である。
②認知の効果
父子関係に認められる全部の効果が発生し、出生時に遡及する(784条
)。もっとも、親権者は認知後も母である。
(2)準正
父母の婚姻を原因として、非嫡出子に嫡出子の身分を与える制度。
①婚姻準正
認知された子の父母が婚姻する場合をいう。「婚姻の時から」準正の効力
が生じる(789条1項)。
②認知準正
父母の婚姻後子が認知された場合をいう。条文上では「認知の時から」準
正の効力が生じる(789条2項)と規定されているが、通説は「婚姻時
から」と解している。
1 養子の意義
養子縁組の手続によって、養親との間で法定の嫡出子としての身分を取得し
たもの。
2 養子縁組の成立要件
(1)形式的要件→届出(799条・739条)
※藁の上からの養子?
出生後間もない他人の子を自分たちの嫡出子として届け出る場合につい
て、嫡出子親子関係は生じないし、養親子関係も生じない(判例)。
(2)実質的要件→①縁組意思の合致
②縁組障害の不存在
①縁組意思の内容については、社会通念上親子関係と認められる身分関係
を設定する意思をいう(通説、実質的意思説)。
②縁組障害については、養親の成年(792条)、目上養子の禁止(79
3条)、後見養子の制限(794条)、夫婦共同縁組(795条・79
6条)、未成年養子の場合の家庭裁判所の許可(798条)、15歳未
満の者を養子とする場合の代諾(797条)がある。
3 養子の効力
①嫡出子たる身分の取得(809条)
②法定血族関係の発生(727条)
4 養親子関係の終了
①当事者一方の死亡、②協議離縁、③裁判離縁
5 特別養子
幼少時の養子につき、実方の血族との親族関係を断絶し、実体的な法律関係
のみならず、戸籍上も養親の実子として取り扱う制度(817条の2~81
7条の11)。
※特別養子の特徴 ①家庭裁判所の審判によって縁組が成立する。
②養親は夫婦に限られる。
③養子は原則として6歳未満。
④実父母の同意を要する。
⑤養子と実方の父母等との親族関係が終了すること。
⑥離縁は審判によるが養親側から離縁請求はできない。
1 相続
自然人の財産法上の地位を、その者の死後に、法律および死亡者の最終意思
の効果として、特定の者に承継させること。
2 相続人
(1)配偶者
血族相続人と同順位である。すなわち、常に相続人となる(890条)。
※内縁配偶者に相続権はない。
(2)血族相続人
①子とその代襲相続人、②直系尊属、③兄弟姉妹とその代襲相続人、のう
ち先順位者のみ。
※代襲相続の場合を除き、これ以外の血族が相続人となることはない。
また、姻族は相続人とはならない。
3 代襲相続
相続人である子または兄弟姉妹が相続の開始以前に死亡し、または欠格・廃
除により相続権を失った場合において、その者の子が代わって相続人になる
こと(887条2項3項・889条2項。なお、再代襲につき887条3項
)。
※相続放棄は代襲原因ではない。配偶者または直系尊属が相続人であるとき
は、代襲相続は生じない。兄弟姉妹について再代襲はない(889条2項
は887条3項を準用していない)。
1 原則として、被相続人の財産上の地位を包括的に承継する(896条本文
)。例外的に、被相続人の一身に専属したもの(一身専属権)は承継され
ない(896条但書)。
2 法定相続分
(1)子と配偶者が相続人のとき
→配偶者は2分の1、子は2分の1である。(900条4号但書)。
子が複数のときは全員で相続分を均分する。
※最高裁の違憲判決により、平成25年12月5日、900条の一部を改
正する法律が成立し、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分と同等に
なった(同月11日公布・施行)。
(2)配偶者と直系尊属が相続人のとき
→配偶者は3分の2、直系尊属は3分の1(900条2号)。
直系尊属で同親等の者は相続分を均分する(900条4号)。
(3)配偶者と兄弟姉妹が相続人のとき
→配偶者は4分の3、兄弟姉妹は4分の1(900条3号)。
兄弟姉妹が複数のときは全員で相続分を均分する。ただし、900条4号
但書に注意!
3 特別受益者の相続分(903条・904条)と寄与分(904条の2)
いずれも相続分の算定にあたり、相続人間の不公平を是正する方法である。
(1)特別受益は計算上相続財産に戻し、寄与分は計算上相続財産から除いた
上で、各自の相続分を法定相続分にしたがって計算し、特別受益者につ
いてはそれから特別受益を引いたものを、寄与者についてはそれに寄与
分を加えたものを相続分とする。
(2)寄与分は相続人に適用されるため、相続人ではない内縁の妻や長男の嫁
などの寄与は考慮されないことに注意!
(3)寄与分と遺贈と遺留分の関係
4 遺産の共有と分割
(1)遺産共有の法的性質
判例は物権の「共有」と同義と解する(共有説)。通説は「合有」と解する
(合有説)。
(2)遺産分割の方法
指定分割(908条)、協議分割(907条1項)、審判分割(907条2
項)。
(3)遺産分割の効力
相続開始時に遡及する(909条本文)。ただし、第三者の権利を害するこ
とはできない(907条但書)。
5 相続回復請求権(884条)
真正相続人から表見相続人に対して侵害排除、占有・支配の回復を求める権
利
(1)原告適格を有する者
遺産占有を失っている真正相続人、その法定代理人、相続分の譲受人
(2)被告適格を有する者
表見相続人(相続資格がないことにつき善意・無過失が必要)
※共同相続人間の相続権侵害について相続回復請求権の適用があるか?
侵害した相続人が、他に真正の共同相続人がいることおとびその相続分を
侵害していることにつき善意・無過失の場合に限って相続回復請求権の適
用がある(判例)。
1 単純承認
全面的に相続を承認すること(920条)。
2 限定承認
被相続人の債務は相続財産の限度で弁済し、相続人自身の固有財産をもって
責任を負わないという留保付きで承認すること(922条)。
3 相続放棄
相続人がその意思によって相続しなかったとすること(939条)。
1 法的性質
①相手方のない単独行為、②死後行為、③要式行為、④代理は不可etc...
2 種類
1 意義
一定の相続人のために法律上必ず留保されなければならない遺産の一部であ
り、被相続人の生前処分または死因処分によって奪うことのできないもの。
2 遺留分権利者
配偶者、子、直系尊属(1042条)
※兄弟姉妹は遺留分権利者ではない!
※遺留分は相続開始前でも放棄できる(1049条)。ただし、遺留分を放
棄しても他の相続人の遺留分は増えないことに注意!
3 遺留分の割合
直系尊属のみが相続人であるときは法定相続分の3分の1であり、その他の
場合は2分の1である(1042条)。
4 遺留分減殺請求権の性質・効果
形成権であり、減殺請求により遺留分侵害行為の効力は消滅し、目的物上の
権利は当然遺留分権者に復帰する(判例)。