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<「抵当権」と「税金差押え」の優先順位とその不動産売買の実務>
Ⅰ【 「抵当権」と「税金差押え」の優先順位とその不動産売買の実務 】
1.抵当権などの担保権と税※1の差押えの優先関係が問題になります。担保権の優先順位は主登記の登記順※2※3になりますが、税の差押えとの関係では「その税金の法定(納付)期限」が先であれば、主登記の登記順に関係なく、税が優先します。
2.この様なケースの具体例では、税の法定納付期限が令和5年11月30日、一方抵当権設定登記日が令和5年12月1日、税の差押登記日が令和5年12月10日のケースでは、税債権の差押えは抵当権の設定登記日の後になりますが、税債権は抵当権に優先することになります。
この結果、『抵当権などの優先順位は、本登記受付日とその登記の受付番号の順位による民法第177条※3(第三者への対抗要件)の大原則は税については破られる。』と言われる所以です。
税などの差押えがある不動産の任意売却のポイントは、抵当権者からの抵当権設定登記抹消の承諾よりも、滞納税金が最優先しての対応が大切です。(労働債権は考慮しないケース)
3.税の差押登記のある不動産の任意売却を取り扱う場合は、国税徴収法に基づき、不動産、動産(家財道具、宝石、自動車等)の他、債権である社会保険料や地方税法、国民健康保険料及び「一つの債権であってもその滞納金の額」によっては差押えの範囲は不動産のみならず全ての財産がその対象です。
さらに、税の差押え対象は当然に銀行預金や給料、生命保険、敷金※4等々にも及びます。
話しが税の滞納額(3000万円あるとした場合)によっては、任意売却の不動産価格※5では不足している場合と、弁済すべき債権者の順位を誤ることでのトラブルのケース。
A.(実務上で間違いの多い事例)
(不動産価格) (抵当権者の債権額) (税の滞納額※5) (税への一部弁済で応諾不可)
5,000万円 -(3,000万円 + 3,000万円)= -1,000万円
B.(正しい事例)
(不動産価格) (税の滞納額) (抵当権者の債権額)(抵当権者の債権額の不足金)
5,000万円 -(3,000万円 + 2,000万円 = 0円…(応諾の可能性あり)
4.つまり、「正しい」選択の不動産の換価となる不動産実務上の売買の際の留意事項です。しかしながら、実は三つの課題が浮上することとなります。
一つ目は、抵当権者の債権額3,000万円のうち、抵当権者へ一部弁済の2,000万円で本件不動産の抵当権設定登記の抹消登記に応じてもらえるか否か。
二つ目は、不動産の評価額5,000万円が妥当な金額なのか否かです。仮に妥当で無いとしても、厳密に評価するために「確定測量」等や調査に時間を掛けることでの税の滞納金(未納税の本税と延滞税)の増加による比較検討が必要でしょう。
三つ目の最後に、自己破産手続きによる競売や任意売却の場合の不動産売却による譲渡税ですが、これについては「資力喪失の場合の譲渡所得等」が適用される。(前記の例の様に、その対価の全部を債務の弁済に充てた時は譲渡所得は非課税です。任意売却のケースであっても無資力(他に見るべき資産が無い)の状況下で競売と同様、全部を弁済に充てた場合と同様に考えられる。)
5.まとめ
不動産の任意売却に関しては、国税の延滞金の差押え(登記簿上は、その債権額が抵当権の様に表示されない点も注意を要します。)の登記がある場合、①全額を弁済していただくか、②不動産仲介業者に於いて前述の様々な法律を熟知又は経験の無い場合は回避することも含めて賢明な判断を要することでしょう。
- 記 -
※1 税とは、国税徴収法(注 延滞税も含めて全額弁済となる)
税の最終負担者が直接・間接を問わず、納税義務者を通じて国庫に納付する税金のこと。国税には、所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税、酒税、たばこ税、自動車重量税など。地方税には、住民税、事業税、固定資産税、都市計画税、地方消費税、自動車税など。特に自己破産及び免責を裁判で認められても国税の納付請求が来ることに留意を要します。又、家賃滞納があっても税法上は当然に「貸倒損失」とはならず、家賃収入があったものとして売上計上し、税金支払いの対象となってしまう。(事業的規模の場合)
※2 登記とは、法務局の登記簿に登記(不動産の物理的現況や権利関係)し、公示する制度。(下記※6参照)
※3 民法第177条(第三者への対抗要件)不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法※6、その他の登記に関する法律の定めるところに従い、その登記をすれば第三者に対抗(主張)することができると規定している。
※4 敷金とは、有償の賃貸借契約に基づき、賃貸人が賃借人から家賃の担保(保証金)として預り、保管して置く金銭で、退去時に賃料の滞納が無い場合、賃借人へ返還される金員。
※5 税の滞納額とは、(※1と関連)
原則として未納税額×法的納期限の翌日から起算して完納日までの日数÷365×14.6%(但し、納期限の翌日から2月を経過する日までは7.3%)ですが、租税特別措置法に於いて別途軽減されている。但し、登記簿にその債権額の表示が無いので注意を要する。
※6 不動産登記法とは、不動産登記法第4条(権利の順位)同一の不動産について登記した権利の順位は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記の前後による。
以上