賃貸物件、原状回復費用負担区分の基本的な考え方(その2)
<賃貸借契約の原状回復費用負担区分の基本的な考え方>(その2)
1)前回の5月号では、「退去時のトラブル」と「澤穂希選手の母親と賃貸人間の原状回復費用」についてホットな話題の中の課題を残して情報を発信申し上げました。
今回は
<原状回復トラブル防止>について
賃貸集宅の原状回復を巡るトラブルが年々増加したことを受け平成10年3月、当時の建設省は原状回復に関する裁判例を収集し、原状回復に関する費用負担等のルールのガイドラインを公表した。平成16年2月にはその後の裁判例等を踏まえて改訂された。さらにそれでも退去時のトラブルが減少しなかったため、国土交通省は平成23年8月、原状回復に関する費用負担等がガイドラインを普及させるために一層の具体化を進めたほか、原状回復のためのルールを普及させるために手順を明確化させるなどの内容を取り入れ、原状回復ガイドラインを再改訂しました。
2)「原状回復義務とは何か?」
裁判所は原状回復とは、①建物の経年劣化=通常損耗部分を元(新築なら新築時)の状態に回復することではなく、②賃借人の故意又は過失によって損害が発生あるいは、劣化した場合の回復を意味するとの判断を示して来ました。
このことは、建物の価値はそもそも時間の経過等により減少するものであり、賃借人が賃貸物件に定められた使用方法に従って社会通念上通常に使用していれば、賃貸借契約終了時に当初の状態よりも建物の価値が減価していたとしても、そのまま賃貸人へ返還すれば良いとする考え方に基づいています。
従って、建物の通常損耗分は賃貸人としては、建物の減価が進行する過程で減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料に含めて支払を受けて回収して来ているのであり、いわんや原状回復の対象となるのは、賃借人の故意、過失等による劣化分ということです。よって、先月号でのレポートの中で澤穂希元選手のお母さんの件をこの条件に合致していた賃貸借契約だとするならば、賃貸人(大家さん)の原状回復にかかる費用100万円~180万円とする請求は認められない可能性が高い。
従って、感情的にならないで、訴訟外での和解の方が得策でしょう。なぜならば、22年の賃貸契約があったことに照らせば、原状回復にかかる費用は22年間の賃料に上乗せになっていると判断される恐れが出るものと思料します。
(例)計算上
55,000円/月×12ヶ月×22年間=家賃収入:14,520,000円
(原状回復費用10%とすれば)
14,520,000円×0.1=1,452,000円
つまり、毎月の賃料収入から10%相当額の積立をして原状回復の費用に充てたとしたら既に1,452,000円の収入があったこととなります。このことがポイントであります。
(私見)
私見ですが、これからの賃貸住宅は原状回復は原則として、賃借人の負担を求められなくなる可能性が高くなってきます。←但し、市営住宅や県営住宅は賃料に原状回復費用が含まれていないためかかる費用負担を求められる。
対策として、敷金は原則して返還するが、損害賠償的な損害は敷金とは別に弁償する旨の特約を分かり易く規定しておくことが大切である。加えて、一年未満での賃貸契約の解除については特約条項で1ヶ月分の賃料相当額の解約金をいただくとする特約条項を定めておく必要性が出て来たとと考えるべきでしょう。
(国土交通省ガイドライン、原状回復基礎知識、全国賃貸不動産及び管理業協会等 文章一部引用)