民法の一部改正について Ⅲ
【暑中見舞い申し上げます】
1.<民法一部改正と実務への影響>
前回6月号のレポートに続き、①~⑤は前回までのレポートにて解説して
参りました。本レポートでは⑥「賃貸物の一部滅失等による賃料の減額」
⑦「保証人からの請求による情報提供義務」について以下の通り解説致します。
⑥「賃借物の一部滅失等による賃料の減額等」
〔改正案〕
(1)賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料はその使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
(2)賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益することができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借した目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除ができる。
1.現行法は「賃料の減額を請求することができる」(民法第611条)だったが改正案では当然に「減額される」ことになる様だ。減額の範囲について、トラブルが生じやすくなる可能性がある。
2.現行法は残存する部分のみで賃借の目的を達成できない場合に解除できるのは賃借人の責めによる滅失でない場合だけであったが、改正法では、賃借人による責任に基づく場合であっても解除できるようになった。そうすると、賃貸人としては、別途、賃借人に対する損害賠償請求を検討することになるだろう。
((解説))
<改正案>の(1)
「賃借物の一部滅失その他の…減額される。」この様なケースは、今回の東日本大震災でも発生しました。建物が津波によって流出した場合は民法や賃貸借契約条項(特約も含む)でも全く問題となりませんでしたが、建物の一部、建物に付随する水、ガス、トイレ、電気が使えない場合は貸主(賃貸人)の責任ではなく水道局等の供給元の起因とすることだった訳です。改正案によると、これら震災とは関係なく、日常的に水道工事や停電等でも賃料の減額を求められる可能性が出るかもしれません。
<改正案>の(2)
「賃貸物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益…賃借人は契約を解除することができる。」とする条項は賃借人の故意・過失で賃借物を焼失した場合、賃貸人からの契約解除は許されませんでした。
今度の改正では賃借人は契約の解除ができることとなります。ただし、別途損害賠償請求の手続きとなります。
⑦「保証人の請求による情報提供義務」
【新設】
債権者は委託を受けた保証人から請求があったときは、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他の債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち履行期限が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。
1.個人の保証人に限らない。法人の保証人からの請求もある。
2.請求を求められる当事者は債権者=賃貸人及び賃貸人の管理者へとなるだろう。改正法で保証人の権利として明示された以上、拒否することが許されなくなる。
管理会社としての業務量が相当増加するものとなるだろう。例えば保証人から家賃が1回でも遅れた
場合、直ちに連絡してください等の請求の内容の場合が考えられこれまで以上に事務手続きが増大することになり、併せて管理会社の懈怠に基づくリスクが危惧される。
また、賃貸人(大家さん)も自らの運営にも限界が生じる恐れも出てくるであろう。