最近の裁判より
[司法が「再審の無罪」の判決で揺いでいる。]
東京電力女性社員殺害事件のネパール人男性の再審無罪やパソコンの遠隔操作事件で19才の学生、社会人、計4人を誤認逮捕が相次いでいる。
その大きな原因は「証拠」の「不開示」や「裏付け捜査」が問題と言われる。私は、このニュースを耳にしたとき、今から30年前に弁護士事務所で扱った同様の事件を想い出している。
事案は、上杉に住んでいた男性Aさん50才代会社員が11月末に仙台北警察署からテレビを1台盗んだ疑いで逮捕された。
犯行現場近くの近隣の主婦のAさんの「犯人に似ているとの証言」で男性Aさんに、容疑がかけられた。Aさんは事件当日11月20日の夕方(4時50分)近くのパチンコ店でパチンコをしていたが、アリバイを証明してくれる人がいなかった。
アリバイは、たまたま右隣の人へパチンコ玉をひと握り貸したことを覚えていたが、名前はわからなかった。知っていたのは髪形やメガネを掛けていた年輩者だったと思うという程度であった。
また盗んだといわれたテレビは質屋さんに入っていた。質屋さんもAさんの姿や形が犯人に似ているという証言。結局、裁判で1年6月の判決言渡しとなり服役した。服役後、パチンコ店に足を運びその時の隣人を探していたがなかなか見つからなかった。
当時、再審の相談を受けた。しかし、判決で示された「証拠」を覆す証拠(証人)が見つからず半ば諦めかけていた。ところが、時を同じくして一本の電話が鳴った。
栃木県において窃盗で捕った男性50才代の手帳には、「仙台市上杉でテレビ1台を盗んだ日時、場所、質屋名、代金等に記されていた。」ということであった。これが新証拠となり冤罪で再審無罪となった。約3年が経っていた。
この間、Aさんの家族はバラバラとなっていた。Aさんは会社から解雇され、娘さん3人のうち1人は当時結婚を控えていたが破談となった。次女、三女は大学や高校を中退していた。
Aさんのその後の生活が取り戻されたのかは、仙台から住所を移転してしまって今はわからない。いずれのケースも「普通の人がある日突然容疑を掛けられ逮捕されるかも知れないという事実が生まれている」ということだ。
法治国家の根幹が問われている。これらの背景は未定だが、「捜査員の未熟さ」、「証拠書類の分析」、「証拠書類の未開示等の検証」が急がれる。
一方、これによって捜査当局や検察庁が萎縮する様なことになってはならないと考えている。
なによりも心が痛むのは、弁護士事務所の一事務員として真犯人が捕まらない時期に「正直、やはりAさんが犯人ではないかとする心が余儀った」ことである。