株式会社 杜リゾート
(不動産コンサルティング部)
1.得意先喪失補償
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得意先喪失補償額=従前の1ヵ月の売上高×売上減少率×限界利益率
(注)2.限界利益率(*1)は(固定費+利益)÷売上高とする。
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●得意先喪失補償の算定
保証額の算定は上記の算定式によります。
これまで得意先喪失補償は、従前の収益または所得のみを対象とし、業種、
休業期間及び場所移転等の要素を考慮して、その何ヶ月という算定式によって
行っていました。
しかし、収益の高低は固定費の大小によるものであり、実際の損失に対す
る補償という観点からするならば、一般的に移転後または休業後、従前の売
上高に回復するまでの損失は、収益はもちろんのこと、売上高が損益分岐点
(売上高と費用が同額で、利益もなければ損失もない売上高をいいます)を
下回るときは、固定費についても補償する必要が生ずるものといえます。
つまり、従前の売上高に回復するまでは固定費が収益を圧迫することが予
測されます。
そこで現在、得意先喪失補償は、売上高の減少額に対応する収益と固定費
を補償対象とすべきものとしています。なお、業種分類が複数にわたる営業
体にあって、業種ごとに把握することが困難な場合には、営業規模比(売場
面積比、生産規模比等)ないしは従業員比等により算出することとしていま
す。
●赤字営業の場合
この場合の得意先喪失補償についても前述の算定式に基づいて計算します。
限界利益率を求めるときに「利益」をマイナスの利益(損失)として算定
することとなります。
*1・・・売上高・変動費・固定費・限界利益の関係
限界利益とは、売上高と変動費との差であり、売上高を一単位増やすこ
とによって生ずる費用(限界費用)は、原則として、単位当りの変動費と
なります。したがって、売上高を一単位増やすことによって生ずる利益
(限界利益)は、単位当りの売上高と変動費(限界費用)との差であると
考えられます。
つまり、増加した売上高と増加した変動費(限界費用)の差を限界利益
といいます。また、売上高に対する限界利益の割合を限界利益率といいま
す。
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限界利益 = 売上高-変動費 = 固定費+利益
限界利益 固定費+利益 変動費
限界利益率=────── = ──────── =1- ────
売 上 高 売 上 高 売上高
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2.営業休止補償(小売の例)
例・・・親子二人で薬及び雑貨の販売を行う薬種販売業を営んでいる。土地
は借地(面関150㎡)で、事業主が建物を所有しており、店舗併
用住宅の一部30㎡を店舗として使用している。具体的に営業補償
額がいくらになるのか、青色申告決算書に基づいて計算するとどう
なるか。
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休業補償額=(収益+固定的経費)×休業補償期間+得意先喪失補償額
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本例の場合、近隣には小規模店舗が軒を連ね、周辺には住宅等が密集して
おり、人口密度が高い下町的雰囲気のある地域にある店舗とします。なお、
建物の移転工法は構外再築とします。収支計算書は、(A)のようになって
います。
●休業補償額
まず、休業補償額は、(B)によります。
この補償額の算定にかかる収益等の基礎額は、次のようになります。
(1)収益(C)
(2)固定的経費(D)
(3)休業補償期間は0.5ヶ月としました。
●得意先喪失補償額
次に、得意先喪失補償額は、(E)によります。
この補償額の算定にかかる従前の一ヶ月の売上高の基礎額は、次のように
なります。
(1)従前の一ヶ月の売上高(F)
(2)売上減少率(G)
(3)限界利益率(H)
●営業休止補償
営業休止補償は、(I)のようになります。
なお、休業補償の補償項目は、次のとおりです。
(1)収益・・・・・収益または所得の認定にあたり、事業専従者控除額
及び青色専従者給与額は必要経費に計上しません。
(2)休業手当・・・本例の場合、従業員は家族(専従者)のみなので、
専従者給与は所得に含まれるので、休業手当補償は
ありません。
(3)固定的経費
①租税公課・・・収入印紙代その他は、補償対象外とします。
②通信費・・・・局預け電話基本料のみを補償対象とします。
③損害保険料・・移転対象建物にかかる火災保険料は、補償対象外と
します。
④広告宣伝費・・チラシ等による広告宣伝費であり、長期契約による
ものではないので補償対象外とします。
⑤減価償却費・・什器備品等にかかる減価償却費については、営業休
止期間中は使用しないため減耗はないものとし、し
たがって陳腐化による損失(計上額の50%)を補
償することとしています。
●借家営業の場合
借家して営業を行っている場合は、借家人補償によって新たな借家を確保
し、そこで営業を再開することになります。
この場合の営業補償は、①移転先における開店のための準備期間の休業補
償と、②営業場所が移転したことによる得意先喪失補償になります。したが
って、この営業補償は一般的には構外再築工法のばあいとほぼ同様になりま
す。
●営業状態の調査
営業休止に伴う補償額は以上のようになりますが、本例のような規模の小
さい個人営業の場合には、必ずしも青色申告をしているとは限りません。そ
こで、適正な補償額を算定するためには、売上高、仕入高はもちろん必要経
費としてその内訳についても、帳簿、伝票あるいは領収書等の証票を充分調
査することになっています。
(A)収支計算書
(平成○○年1月1日~平成○○年12月31日)
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科 目 │ 金 額
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収入金額 │売 上 高│ 28,618,050 円
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売上原価 │仕 入 高│ 21,632,788
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│租税公課 │ 202,177
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│荷造運賃 │ 7,860
├─────┼────────
│水道光熱費│ 273,319
必 ├─────┼────────
│通 信 費│ 61,532
├─────┼────────
│広告宣伝費│ 45,000
要 ├─────┼────────
│接待交際費│ 42,600
├─────┼────────
│損害保険料│ 15,458
経 ├─────┼────────
│修 繕 費│ 38,170
├─────┼────────
│消耗品費 │ 45,681
費 ├─────┼────────
│減価償却費│ 43,875
├─────┼────────
│地代家賃 │ 132,501
├─────┼────────
│ 雑 費 │ 5,800
├─────┼────────
│ 計 │ 913,973
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差 引 金 額 │ 6,071,289
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(注)仕入高は期首と期末の商品棚卸高を
加算、減算したものである。
(B)休業補償額
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補償額=(収益+固定的経費)×休業補償期間
=(505,940円+32,327円)×0.5ヶ月=269,133円
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(C)収益
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収益=収入金額-売上原価-必要経費
=28,618,050円-21,632,788円-913,973円=6,071,289円
1ヶ月当りの収益=6,071,289円×1/12=505,940円
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(D)固定的経費
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科 目 │ 金 額 │ 内 訳
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租税公課 │194,077円│固定資産税、同業組合費、商店会費
通 信 費│ 28,200 │電話基本料
損害保険料│ 11,220 │商品、什器備品の火災保険料
減価償却費│ 21,937 │陳列棚(43,875円×1/2)
地代家賃 │132,501 │借地料
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合 計 │387,935 │
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1ヶ月当りの固定的経費=387,935円×1/12=32,327
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(E)得意先喪失補償額
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補償額=従前の1ヶ月の売上高×売上減少率×限界利益率
=2,384,873円×145%×24.38%=843,063円
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(F)従前の1ヶ月の売上高
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1ヶ月の売上高=28,618,050円×1/12=2,384,837円
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(G)売上減少率
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売上減少率表の「小売業-9」,「構外移転145」の減少率を適用する。
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※構外移転とは、営業の店が区域外へ移ること。
(H)限界利益率
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(1)必要経費のなかの固定費〔租税公課、水道光熱費等〕
=必要経費-荷造運賃
=913,973円-7,860円=906,113円
(2)限界利益率=(固定費+収益)÷売上高
=(906,113円+6,071,289円)÷28,618,050円
=24.38%
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(I)営業休止補償
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補償額=休業補償額+得意先喪失補償額
=269,133円+843,063円=1,112,196円
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